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アウトリーチ活動へのスタンス

科学業界において、アウトリーチという活動が日増しに重要度を増している。アウトリーチとは、研究の成果を国民に分かりやすく周知する活動である。例えば、一般に公開される講演会、サイエンスカフェ、模擬授業、体験実験などである。成川は大学院の学生時代、アウトリーチ活動に勤しんでいる人達、特に学生に対して、あまり良い感情を持っていなかった。当時の個人的な判断ではあるが、彼らの多くは本業である研究活動よりもアウトリーチ活動により注力しているように感じたからだ。一度、学生時代に、同じ学科のアウトリーチ活動に熱心な先生に対して、お酒を呑んでいる時に勢い余って、「あなたは大学の教員で、研究室の学生の研究指導が本分なのに、それを蔑ろにして高校生向けの活動等に勤しんでばかりなのはよろしくない!」と批判したことがある。学部生の頃から付き合いのある先生で、だからこその発言だったのだが、非常に度量の大きい先生で、僕の批判を受け止めてくれた。とにかく、このような言動からも分かるようにアウトリーチ活動に対して、成川はあまり好意的な人間ではなかったのである。その後、博士取得後に着手した研究が、見た目で直感的に分かる内容であったこともあり、研究室公開などでデモ実験をよくやるようになった。それらの経験を通じ、一般の人に自分の研究の面白さを伝えて、実際にそれが伝わったことを実感できることは素直に楽しいと感じるようになった。さらに、光合成学会若手の会の活動の一環として、日本最大のアウトリーチの祭典・サイエンスアゴラにも出展するようにもなった。そこでは、学生さんにも積極的に参加してもらっていた。ただ、それらの活動において留意していたのは、「あくまでも我々の本分は研究活動」という点である。特に学生さんにはあまり負担がかからず、でも、これらの活動を通して一般の人に伝えるスキルを磨き、また、一般の人からの科学への期待を感じることで、自身の研究へのモチベーションが上がるような体験にしてもらいたかった。現任校に着任してからは、現任校で10年以上前から行われているサイエンスカフェの講師をしたり、現任校で主催しているサイエンススクールで高校生相手に研究指導をしたり、高校に出張授業に行ったり、と更に活動の幅を広げている。出張授業に行く際にも、キャリーバッグに簡単なデモ実験の道具を詰め込んで、やる気満々である。

 冒頭に書いたように、アウトリーチ活動は日増しに重要性を増しているため、それを専門に扱うサイエンスコミュニケーターという職も増えてきているわけだが、そのような状況下にあっても、現役の研究者がアウトリーチ活動に従事することには大きな意味があると確信している。もちろん、コミュニケーションという点においては、専門職として従事しているサイエンスコミュニケーターの方達に勝る技術があるとは思えないが、最先端で研究を行い、奮闘している人達の現場感が醸し出す熱気が、一般の方に与える影響は大きいと思う。実際、サイエンスカフェや模擬授業の感想において、「全てを理解できたわけではないが、先生がとにかく楽しく研究していることがよく伝わった」といった内容を書かれることも多い。このような交流を地道に進めることで、一般の方に基礎研究の面白さや重要性が伝われば、研究環境も良くなっていくのではないだろうか。基礎研究に従事している身としては(最近は応用的な研究にも従事しているが、それでもすぐに応用利用できる類いではない)、アウトリーチ活動をしていると、「面白いですね、それでこの研究はどんな役に立つんですか?」と聞かれることが多く、最初のうちは返答に困ることがあった。最近は、基礎研究により未知だったことが解明されると「教科書の一行を書き換える、一行を増やす」ことになる、そうやってこれまで知識は積み上がり、結果として役に立つことを説明しつつ、その上で、短期的に役立ちそうな事例も言及するようにしている。こういう説明をすると、大抵、一般の方もこちらの意を汲んでくれるので、このような活動をしていくことは基礎研究の今後のためにも重要だと思っている。そして、このようなアピールを継続していくために、「あくまでも我々の本分は研究活動」というのを忘れず、研究者として最先端でやれている、という矜持を持ち続けられている限り、アウトリーチ活動にも積極的に勤しみたいと思っている。

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