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研究内容を他の人に伝えるということ

前回のコラムにて論文を書くことについて言及したが、論文執筆だけでなく、学会発表やアウトリーチ等も通じて、研究内容を様々な方に伝える活動が、我々研究者の主要な活動の一つである。ポスターだったりスライドだったり、形式は様々だが、それらの形式を通じて、研究内容を伝える行為をかなりの頻度で行っている。また、学会といっても様々な学会があり、それぞれの学会毎に聴衆のバックグラウンドは異なる。特に成川は分野横断的な研究テーマを推進しているため、多様な学会で研究内容を発表する必要がある。アウトリーチに関しては、小学生から社会人まで幅広い層の聴衆が相手となる。このような場合、それぞれの場において、どのような聴衆であるかを事前に鑑みて、それに合わせて発表準備を進めることが肝心である。スライドやポスターの準備については、学生時代に先輩や指導教員の先生達の発表を見たり、発表練習で指摘を受けたり、というのを経て、自分の中である程度、スタイルを確立させることができたと自負している。自分の発表を客観的に評価するのは難しいが、僕は発表が得意な方だと思う。研究者としての能力の評価として、もちろん論文業績が重要なのは言わずもがなであるが、発表での印象というのは侮れないくらい大きなウェートを占めることがある。個人的には、口頭発表において、設定された時間枠を守れないのは印象が悪い。また、スライドに余白が結構あるにもかかわらず、文字や図が小さすぎると、この人は見せる気があるのかな?と訝しんでしまう。僕自身が自分で実験を主に行っていた学生や助教だった頃には、指導教員の先生からの「雑駁な話しかしないと、分かりやすいかもしれないが、新聞発表のようなものになり、研究発表ではなくなる」というメッセージを念頭に、細かい話をする意識を強く持っていた。にも関わらず、それぞれの実験に思い入れがあり、かつ、論理を飛ばさずに一つ一つ丁寧に説明しようとしていたので、発表がかなり早口になってしまう傾向があった。自分がPIになってからは、ある部分においては細かい内容をきちんと話しつつ、全体としては、研究のコンセプトを伝える内容がメインになり、だいぶ話すスピードは遅くなったと自覚している。最近は、極力、文字情報を減らし、画像情報で直感的に理解できるスライドを作成することに注力している。そして、それぞれの学会に合わせて話す内容を精査し、論理展開も再構築する。そのため、一つ一つのプレゼン準備に費やす時間はかなり多くなってしまうが、こういった努力のお陰で、さらに他の場で話す機会をいただくことになり縁が広がっていく。例えば、2013年の分子生物学会のワークショップに声を掛けてもらい発表をしたのだが、その場にいた、全く面識のない方から後日メールで連絡があり、次回の学会ワークショップでも話してもらえないか?と依頼があった。また、2016年に開催された研究会で一緒になった初対面の方が、僕の講演を聞いた後に、その方がその年の分子生物学会のワークショップを企画する立場だったということで、その場で講演依頼を受けたこともある。これまでに全く交流がなかった方々から、こうやって誘いを受けるというのは、もちろん、研究内容が彼らの企画に合致していたのもあるだろうが、こちらの伝えたい内容がしっかりと彼らに伝わったということの証左だと思う。

このような営みは、アカデミックポストの就職活動にも直結する。応募先の先生が、どこかで自分の発表を聞いたことがあり、良い印象を持っていたら、大きなアドバンテージになるだろう。また、書類選考を通過した場合、面接での選考において、これまでの研究とその後の研究展開についてプレゼンすることになるだろう。その際には、審査をする先生方は自分の専門分野と近い人ばかりではないことが多い。そのような状況で、自分のこれまでの研究とその後の展開を分かりやすく伝えられるかどうかは、これまでの学会等で培ってきた経験・技術にかかってくるだろう。若い研究者の人達は、どんどん実験をして自分の研究を推進したいだろうが、自らが発見した成果をしっかりと他の人に伝えることにも時間を割くことを勧める。それは、確実に自分の財産になるだろう。そして、発表後、聴衆の方から「良い発表だったよ」と声を掛けられれば、次の実験・研究への大きなモチベーションにもなる。僕自身も、後進の研究者達が「面白い発表だなぁ、こちらも頑張ろう」と思うような発表をしていけるよう、発表技術の向上に今後も邁進したい。

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